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東京地方裁判所 平成10年(ワ)12579号 判決 2000年2月07日

原告

遠藤正雄

原告

河野妙子

原告

石塚清子

原告

石川シゲ子

原告

吉田定雄

原告

臼井富美

原告

長山武雄

右七名訴訟代理人弁護士

仲田信範

右仲田信範訴訟復代理人弁護士

平澤千鶴子

小林菜実

被告

伊藤製菓有限会社

右代表者代表取締役

伊藤誠

右訴訟代理人弁護士

赤羽富士男

主文

一  被告は、原告らに対し、別紙「認容額計算書」中各原告に係る「認容額」欄記載の各金員及びこれらに対する平成一〇年六月一九日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告らに対し、別紙「一覧表」中各原告に係る「未払退職金」欄記載の各金員及びこれらに対する平成九年八月一九日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告の元従業員である原告らが、被告に対し、未払退職金の支払を求める事案である。

一  争いのない事実

1  当事者

被告は、ポテトチップの製造販売を業とする有限会社であるが、現在営業は行っていない。

原告らは、いずれも被告の元従業員である。また、原告らは、他の従業員とともに、平成九年八月一日に労働組合を結成し、合化労連化学一般関東地方本部に加盟した(以下「本件労働組合」という。)。

2  本件解雇及び被告の廃業

被告は、平成九年七月一〇日、当時の被告の従業員全員に対し、同日付けの書面(<証拠略>)をもって、累積債務の増大による経営不振を理由として、同年八月一二日付けで解雇する旨通知した(以下、この通知による解雇を「本件解雇」という。)。

また、被告は、同年八月一〇日、被告の取引先に対し、同月二五日で業務を廃止する旨の通知をし、同日をもって実質的に廃業した(以下「本件廃業」という。)。

3  本件協定の締結の状況等

本件労働組合と被告とは、平成九年八月一二日団体交渉(以下「本件団体交渉」という。)を行ったが、この際、被告は、資料を配布してこれ以上の会社経営は不可能であるなどとして被告を整理したい旨説明した。これに対し、本件労働組合は、被告が退職金の支払及び夏季一時金等労働債権を支払うことを条件に、被告の方針を受け入れることとした。この結果、本件労働組合と被告とは協定書(<証拠略>)(以下「本件協定書」という。)を取り交わした。右協定書には、退職金に関し左記のとおりの記載がある(原文に、趣旨を変更しない限りにおいて訂正を加えた。)。

被告は、別紙「退職金規程の退職金計算書」<略>(<証拠略>)中原告らを含む「従業員氏名」欄記載の各従業員(以下「原告らほか四名」という。)の解雇に伴って、被告の就業規則に基づく退職金の支払を、同別紙中「未払退職金」欄記載のとおり行うことを確認する。

二  当事者の主張

1  原告らの主張(請求原因)

被告の就業規則(<証拠略>)(以下「本件就業規則」という。)及びこれに基づく退職金規程(<証拠略>)(以下「本件退職金規程」という。)は従前から被告に設置されていたものである。また、本件労働組合と被告とは、本件協定書を取り交わした際、本件退職金規程を参考として退職金額を決定する合意をしたものであって、被告の本件退職金規程に基づく退職金支払義務は、本件労働組合と被告間の労働協約あるいは原告らと被告間の私法契約の内容となっているというべきである。

被告は、右のとおり原告らの退職金に関し右の合意をしたにもかかわらず、支払財源がないとの一点張りで、右退職金の支払をしない。

よって、原告らは、被告に対し、右合意による退職金支払請求権に基づき、別紙「一覧表」中各原告に係る「未払退職金」欄記載の各金員及びこれらに対する本件解雇の日から七日を経過した日である平成九年八月一九日から支払済まで年五分の割合による金員の支払を求める。

2  被告の主張

(一) 協定の無効

(1) そもそも、本件就業規則及び本件退職金規程を作成したのは被告ではない。これらが被告に設置されたことはないし、過去本件退職金規程に則って退職金が支払われたこともない。これらは、本件労働組合が団体交渉の際に初めて被告側に呈示したものである。よって、本件就業規則及び本件退職金規程は法的効力を有するものではない。

(2) 別紙「退職金規程の退職金計算書」(<証拠略>)は、右のとおり本件労働組合が持参した本件退職金規程を基準として三森税理士が計算して作成したものである。

(3) 以上のとおりであって、右計算の前提となる本件退職金規程に法的効力がない以上、本件協定書に係る合意にも法的効力はない。

(二) 被告の心裡留保

被告代表者伊藤誠は、本件労働組合と本件協定書を取り交わした際、これに同意すべきか否かにつき三森税理士に相談したが、三森税理士から、「どのみち法的効力のない文書である。退職金及び夏季一時金の金額が余りに大きいからかえってうそっぽい。」との回答を得たので、これに署名押印した。このように、被告が別紙「退職金規程の退職金計算書」(<証拠略>)中「未払退職金」欄記載の金額を確認した意思表示は心裡留保に当たるというべきである。

本件労働組合は、本件退職金規程なる被告とは無関係の退職金規定に基づき、本件協定書に係る合意をしたのであるから、被告の右意思表示が心裡留保に基づくものであることにつき、知り又は知り得たというべきであり、したがって、被告の右意思表示は無効である。

(三) 労働組合適格の欠缺

本件協定書に係る合意は、被告と合化労連化学一般伊藤製菓支部(本件労働組合)との間に締結されたものとなっているが(<証拠略>)、本件労働組合は労働組合適格を欠くものである。すなわち、本件協定書を取り交わした際、労働組合構成員として名を連ねている佐藤秀夫(以下「佐藤」という。)及び湯浅信夫(以下「湯浅」という。)は名実ともに被告の取締役であって、使用者の利益代表者ということができる。したがって、労働組合法二条ただし書一号により、本件労働組合を労働組合と認めることはできない。

原告らは、右両名が本件労働組合に加入することによって同組合の自主性が損なわれることはない旨主張するが、右両名が組合員となることによって、労働者と認定される人数が増え、労働者に対する配当原資が限られている本件のような状況の下においては、客観的に他の従業員にとって不利益になるから、右両名が組合員となることによって本件労働組合の自主性が損なわれるのであって、原告らの右主張は失当である。

そうすると、労働協約としての右合意については、その協約締結の一方当事者が労働組合適格を欠くのであるから、右合意は労働協約として無効である。

原告らは、協約締結適格の欠缺のために労働協約としての効力が認められなかったとしても、私法上の契約としては有効に成立するというべきである旨主張するが、労働協約としての効力が生じない以上、私法上の効力も生じないというべきであり、原告らの主張は失当である。

(四) 被告が原告らに対して別紙「退職金規程の退職金計算書」中「未払退職金」欄記載の金員を支払っていないことは認めるが、原告らは、別紙「認容額計算書」中の「社団法人神奈川県中小企業年金福祉共済団からの支払額」欄及び「労働福祉事業団立替払額」欄記載の各金員を、それぞれ社団法人神奈川県中小企業年金福祉共済団及び労働福祉事業団から支給されている。

3  原告らの反論

(一) 2(二)の被告の主張に対して

2(二)の被告の主張は否認する。

(二) 2(三)の被告の主張について

(1) 佐藤及び湯浅が取締役であったとしても、右両名は被告のために労働していた労働者であるから、右両名が本件労働組合に加入したからといって本件労働組合の労働組合性が否定されるものではない。

(2) そもそも、会社の利益代表者の参加する労働組合の労働組合性が否定されるのは、経営者側に立つ者の参加によって一般労働者の権利が害されてはならないからであって、経営者側を保護する目的にはない。また、労働組合法二条ただし書において利益代表者の加入を認める労働組合には同法の保護を与えないとしているのも、その者の加入により一般労働者の労働組合が自主性を失うのを防ぐという政策目的によるものである。さらに、労働組合の自主設立を原則とする現行法においては、同条ただし書に抵触するからといって直ちに協約締結能力を欠くとはいえない。

本件労働組合も、佐藤及び湯浅が参加したからといって自主性は失われておらず、同法二条本文の要件は満たしている。また、突然解雇され退職金の支払を得られないという状況にあった佐藤及び湯浅がともに労働組合に入って自己の権利を確保しようとしたのは当然の行為であり、これによって他の労働者らの利益が害されたということもないから、労働組合の効力を無効と考えるまでもない。

仮に右両名が参加したことによって本件労働組合の労働組合適格を欠き、これと経営者側との間で締結された労働協約を無効とするなら、かえって、労働組合法一六条が労働協約に特別の効力を与え、労働者を保護している趣旨が害されることになる。

(三) 2(四)の被告の主張に対して

2(四)の被告の主張は認める。

第三当裁判所の判断

一  争いのない事実及び証拠(<証拠・人証略>)によれば、本件労働組合と被告とは、平成九年八月一二日団体交渉を行ったが、この際、被告は、資料を配布してこれ以上の会社経営は不可能であるなどとして被告を整理したい旨説明したこと、これに対し、本件労働組合は、被告が退職金の支払及び夏季一時金等労働債権を支払うことを条件に、被告の方針を受け入れることとしたこと、この結果、被告と本件労働組合とは、本件協定に係る協定書(<証拠略>)に署名押印してこれを取り交わしたこと、右協定書には、退職金に関し、被告が、別紙「退職金規程の退職金計算書」(<証拠略>)中原告らほか四名の解雇に伴って、原告らほか四名に対し、被告の就業規則に基づく退職金の支払を、同別紙中「未払退職金」欄記載のとおり行うことを確認する旨の記載があること、以上の事実が認められる。

二  右認定の事実によれば、被告と本件労働組合とは、被告が、別紙「退職金規程の退職金計算書」中の「従業員氏名」欄記載の者に対して、同「未払退職金」欄記載の金員を支払う旨の協定(労働協約。以下「本件協定」という。)を締結したことが認められ、したがって、同別紙中の「未払退職金」欄記載の原告らに係る金員(これは、別紙「一覧表」中の「未払退職金」欄記載の金員と同額である。)は、被告が原告らに対して退職金として支払うべき金員であることが認められる。

三  被告の主張について

1  被告は、本件就業規則及び本件退職金規程を作成したことも、これらを設置したこともなく、本件労働組合によって本件団体交渉の場で初めて被告側に呈示されたものであること、過去右就業規則及び退職金規程に則って退職金が支払われたことはないこと、したがって、右就業規則及び退職金規程は法的効力を有するものではないこと、別紙「退職金規程の退職金計算書」(<証拠略>)は、右のとおり本件労働組合が持参した本件退職金規程を基準として三森税理士が計算して作成したものであること、以上を理由として、本件協定には法的効力はない旨主張する。

しかし、本件協定書には、「会社就業規則に基づく退職金」との記載があることが認められるから(<証拠略>)、本件協定の締結に際して、本件労働組合のみならず、被告も、被告には就業規則が存在することを前提としていたものと推認され、また、被告の右主張を前提とすると、被告としては存在を否定すべき就業規則及び退職金規程を本件労働組合から呈示されながら、これを前提に本件協定書に署名押印したことになるが、そのような判断・行動をするとは容易に考え難い。このことに、証拠(<証拠・人証略>)を併せ考えれば、被告には本件就業規則及びこれに基づく本件退職金規程が設置されていたことが認められる。したがって、これが存在していなかったことを前提とする被告の右主張は採用できない。

2  被告は、本件協定を締結するに当たりその意思表示には心裡留保があり、本件労働組合は、本件退職金規程(<証拠略>)なる被告とは無関係の退職金規定に基づき本件協定を締結したのであるから、右意思表示が心裡留保に基づくものであったことを知り又は知り得たというべきであるとして、被告の右意思表示は無効である旨主張する。

しかし、被告には本件退職金規程が備え付けられていたことは1のとおりであるから、被告とは無関係の退職金規程に基づき本件協定を締結したことを前提とする被告の右主張は採用できない。

3(一)  被告は、本件協定において、労働組合構成員として名を連ねている佐藤及び湯浅は名実ともに被告の取締役であって、使用者の利益代表者であるということができ、労働組合法二条ただし書一号によって、本件労働組合は労働組合と認めることはできず、労働組合適格を欠くとして、そのような労働組合との間に締結された本件協定は無効である旨主張する。

(二)  労働組合法二条ただし書一号は、労働組合には「役員」の参加を許さない旨規定しており、この「役員」に株式会社、有限会社の取締役が含まれることは明らかである。一方、同法同条号が労働組合に使用者側人員の参加を許さないこととした趣旨は、同法同条号のその余の要件(「雇入解雇昇進又は異動に関して直接の権限を持つ監督的地位にある労働者、使用者の労働関係についての計画と方針とに関する機密の事項に接し、そのためにその職務上の義務と責任とが当該労働組合の組合員としての誠意と責任とに直接てい触する監督的地位にある労働者その他使用者の利益を代表する者」)、同法同条本文並びに同法同条ただし書二ないし四号の各規定にかんがみて明らかなとおり、労働組合の自主性を確保するため、その自主性が阻害される危検の特に大きい一定の使用者側人員が労働組合に参加することを否定することにあるから、役員とはいえ右の自主性を損なう危検が大きいとはいえない者にあっては、その者が労働組合に参加したとしても、これをもって労働組合と認められないと解する理由はない。すなわち、形式的に役員に当たる者であっても、その具体的な地位によっては、その者が労働組合に加入していても労働組合として認めることができる場合があるというべきである。

被告は、佐藤及び湯浅が組合員となることによって、労働者と認定される人数が増えることになるが、労働者に対する配当原資が限られている本件のような状況下においては、このことは客観的に他の従業員にとって不利益に当たるとして、右両名が組合員となることによって本件労働組合の自主性が損なわれる旨主張するが、右のような不利益があるからといって本件労働組合の自主性が損なわれるとまではいえず、被告の右主張は失当である。

(三)  次に、証拠(<証拠・人証略>)によれば、次の事実が認められる。

(1) 佐藤及び湯浅は、昭和三六年五月二三日にそれぞれ被告の取締役に就任した。

(2) 佐藤が取締役に就任した経緯、就任した後の状況等は次のとおりである。

佐藤は、被告に入社して九年程度経過し、二五歳ないし二六歳であった昭和三六年ころ、被告の当時の代表者から、迷惑をかけないから取締役になってほしいと申し入れられ、特段の思慮もなくこれに応じた。この際佐藤は、右申入れの趣旨が取締役に名を連ねることとなるとはとらえておらず、実際に取締役に名を連ねていることを知ったのは右申入れから数年経った後であった。

佐藤が取締役に就任した際、同人は工場長ではなく、一般の従業員と同様に勤務をしており、その他労働条件に何ら変更はなかった。その後工場長に就任し、また、昭和五八年ころから役員手当の支給を受けるようになった。佐藤の平成九年七月分の給与等総支給額(額面)は五五万六〇〇〇円であるが、うち役員手当としての支給額は三万六〇〇〇円であった。

被告が実質上廃業した(本件廃業)平成九年八月一〇日の直前ころには、佐藤は、機械の保守点検、工場で使用する原材料の一部の仕入れを担当しており、右仕入れに関しては、在庫が少なくなれば佐藤が注文し、また、機械設備の製作に関し部品を注文するに当たり、一万円以上の出費となる場合には被告代表者の許可を取り、これを下回る場合には佐藤が自らの判断でこれを行っていた。

(3) 湯浅が取締役に就任した経緯、就任した後の状況等は次のとおりである。

湯浅は、被告に入社して七年程度経過し、二三歳ないし二四歳であった昭和三六年ころ、湯浅のおじに当たる被告の当時の代表者から、名前と印鑑を貸してほしいと申し入れられ、これに応じて取締役に名を連ねた。湯浅は、支給開始時期は不明であるものの、役員手当の支給を受けるようになった。平成九年七月分の給与等総支給額(額面)は五二万三〇〇〇円であるが、うち役員手当としての支給額は三万六〇〇〇円であった。

湯浅は、被告が実質上廃業した(本件廃業)平成九年八月一〇日の直前には、営業と工場内の作業とを担当していたが、営業活動に当たり、そこで売上金額の小さい場合については独断で決定し、売上金額の大きい場合については被告代表者に相談して行っていた。

(4) 被告においては、その代表者及びその子である伊藤元一が経営面を取り仕切っており、また、取締役会が開催されることもなかった。

(5) 被告の商業登記簿上は、佐藤及び湯浅が平成九年八月一一日付けで取締役を辞任したこととされているが、被告に対する意思表示は同月二五日ころにされた。

佐藤及び湯浅は、同月一一日本件労働組合に加入した。

(四)(1)  (三)で認定した実によれば、佐藤及び湯浅が被告の取締役であり、一定の役員手当の支給を受け、本件廃業の直前には社内ではそれぞれ工場部門、営業部門の責任者的な立場にあったこと、そのような者が、取締役の辞任の意思表示を行う前に本件労働組合に加入したことが認められる。しかし、同じく(三)で認定した事実によれば、佐藤及び湯浅は取締役に就任した当初は正に形式的に取締役に名を連ねていたのみであったと認められるが、被告は、右両名がその毎に経営に関与するなど実質的に取締役としての職務を担うようになったことの具体的な主張、立証をしないから、右両名の取締役としての立場はこれに就任した当初と変更がないものと推認される。このほか、(三)で認定した事実によれば、被告においては取締役会が開催されておらず、したがって右両名が取締役会に出席したことはないこと、右両名が被告の実質的な経営面に直接関与していたとはいえないこと、右役員手当の金額の給与等の総支給額に占める割合はいずれも六パーセント程度にすぎないことが認められることにも照らすと、右両名は、取締役兼従業員であって、かつ、一般従業員としての職務の割合がその大半を占めており、取締役としての職務の割合はごく小さいものであったことが認められる。

(2) なお、証拠(<人証略>)及び弁論の全趣旨によれば、平成九年八月六日に開催された被告と本件労働組合との間の団体交渉の場に、被告側の者として佐藤が出席していたことが認められる。しかし、この事実をもって佐藤が被告の利益代表者等であることを認めるには足りず、右認定を左右するものではない。

証人伊藤明美は、本件廃業に関し、平成九年七月四日に、伊藤明美、伊藤元一、佐藤、湯浅ほか二名で話合いを持ったが、佐藤及び湯浅をこれに参加させたのは右両名が役員であったからである旨証言する。しかし、仮に佐藤及び湯浅が右話合いに参加したとしても、伊藤明美の主観的認識はともかく、客観的に右両名が被告の利益代表者等であったことを示すものであるというには足りず、右認定を左右するものではない。

(3) したがって、右両名は、同人らが本件労働組合に参加したとしても同組合の自主性を損なう危検が大きいとはいえない地位にあったというべきであり、右両名が労働組合法二条ただし書一号に該当するということはできない。

よって、被告の(一)の主張は採用できない。

四  被告は、原告ら対し、二で認定した退職金を支払っていないこと、原告らは、別紙「認容額計算書」中の「社団法人神奈川県中小企業年金福祉共済団からの支払額」欄及び「労働福祉事業団立替払額」欄記載の各金員を、それぞれ社団法人神奈川県中小企業年金福祉共済団及び労働福祉事業団から支給されていることは、当事者間に争いがない。そして、社団法人神奈川県中小企業年金福祉共済団及び労働福祉事業団から原告らに対して支給された金員の性質が退職金の支払あるいは立替払に当たることにかんがみると、二で認定した退職金金額から右各金員を控除した金員が、本件で認容すべき未払退職金の金額である。

原告らは、本件解雇から七日後の平成九年八月一九日から支払済までの遅延損害金を請求する。労働基準法二三条一項は、退職した労働者の請求があった場合には七日以内に賃金(これに退職金が含まれることは明らかである。)を支払わなければならない旨規定しているから、原告らは本件解雇の日に被告に対して右退職金の支払を請求していることを要するが、このような請求を行ったことを認めるに足りる証拠はない。また、原告らは、その後本件訴え提起に至るまでの間に右のような請求をしていることの主張、立証をしないから、結局、本件遅延損害金発生の始期は、原告らが被告に対して右のような請求をしたことが当裁判所に明らかな被告に本件訴状が送達された平成一〇年六月一二日の七日後である同月一九日であると認めるのが相当である。

よって、原告らの請求は、別紙「認容額計算書」中「認容額」欄記載のとおりの金員及びこれらに対する平成一〇年六月一九日から支払済まで年五分の割合による金員の支払を求める限度で理由がある。

五  以上のとおりであって、主文のとおり判決する。

(裁判官 吉崎佳弥)

認容額計算書

<省略>

一覧表

<省略>

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